2 きのふかも あられ降りしは 信楽の 外山のかすみ 春めきにけり
作者
藤原惟成(ふじわらの これしげ)
花山天皇の乳母子で即位後も仕えていた。寛和の変以後は出家した。北家。
現代語訳
昨日のことか、あられが降っていたのは。もう信楽の空にかすみが立って、すっかり春めいてきた。
考察
仁和二年の歌合せで霞をテーマに詠んだという。テーマの「かすみ」に「あられ」を並べることで、時間の連続性を意識させる歌になっている。
「昨日まであられが降っていたのに」と驚く上の句に比べて、その後の下の句はただ外山の霞が「春めいてきた」と述べるばかりで、春めいてきたことへの思いはない。古今集であればこの後に続くのは恋人が来ない恨みや世の儚さといった内容であっただろう。下の句を描写と感想にとどめることで、「外山のかすみ」という映像の印象が強く残る。だから歌は全体として、春の訪れの感慨が叙事的に表現されているように感じた。
「あられ」「かすみ」がひらがなで表現され、雰囲気が柔らかくぱっと見で映像が頭に入りやすい。